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不動産は反脆弱的な資産クラスです(後)

先に取り上げた論文では、過去400年間にわたる不動産価格の変化に関する実証データ(オランダの住宅価格に関するケーススタディ)を取り上げ、ペストやナポレオン戦争そして1918年のスペイン風邪や世界大恐慌などの主要な“ブラック・スワン”的事象にもかかわらず、不動産はマイナス面(有形の不動産価値によって提供されるフロア)とファット・テールのプラス面に対して回復力を示してきました。

次の問題は、不動産が投資の凸性、つまり“反脆弱性”の要件を示しているかどうかです。凸性の因果関係を確認するために、不動産の需要と供給のダイナミクスを、株式と債券を支える従来のビジネスのダイナミクスと比較してみます。

一般的な企業の場合、需給均衡の需要側は、成功と実行可能性に大きな影響を及ぼします。企業は顧客に対応しますが、顧客の状態と需要をいつでも制御することはできません。その意味で、企業は全体として、主に“外因的”と言えます。

不動産はまた、テナントである顧客にも対応しています。需要は顧客の数の関数であり、それは一般人口の派生物と言えるので、長期的には全体として増加します。

したがって、不動産に対する顧客の需要は、全体的には自然に右方向にシフトすることになります。それは、マクロ経済の混乱や局所的な社会的混乱の短期的な周期的影響を平滑化した後に訪れます。

不動産の需給均衡におけるより強力な力は、むしろ供給側です。言い換えれば、不動産の“ブーム・バースト・サイクル”(景気の拡大・縮小が繰り返される循環的現象)は、需要側よりも供給側によって推進されます。

したがって供給は、不動産の需要と供給の相互作用における均衡の主要な推進力であると言えるでしょう。全体としての不動産は、主に“内因的”であるわけです。

世界金融危機の後、不動産全体の新規供給のレベルが低下しました。これは、不動産開発業者の資本へのアクセスを制限する政策立案者によって課されたリスク対策と相まって、恐怖とリスクオフの精神から生じています。

逆説的に、ショックが深刻であるほど、つまりボラティリティが高いほど、結果として生じる新規供給の削減は深刻になります。

ボラティリティが高まる状況下での、短期的および長期的な不動産の需給均衡を考えましょう。

価格および数量の需要と供給の均衡から始めて、最初に“ブラック・スワン”がスポット価格に与える影響を見ます。

総需要へのショックにより、需要は大幅に減少しているのに対して、供給の減少は需要の減少に比べて小さいことがわかります。

不動産では、陳腐化や限界資産の市場からの撤退により供給が減少します。

しかし、生産ラインを停止できる製造業とは異なり、不動産の供給は本質的に固定資産です。新しいスポット均衡では価格は低下します。

投資の凸性をテストするために、ボラティリティに対する不動産のパフォーマンスを分析します。

ボラティリティの代用として、実質GDPの年間変化率を使用します。ショックが大きければ大きいほど、GDP成長のマイナス面も大きくなります。

GDP成長率の著しい減速を過去2年間のGDP成長率の平均レベルと比較すればわかります。長期的に見た場合、不動産は脆弱ではない資産クラスであることが自ずと見えてくるはずです。

COVID-19などの“ブラック・スワン”的ショックは、発生する可能性が未知です。また、影響についても未知です。“未知の上の未知”は、ファットテール・リスクの現実世界の極限環境を表しているでしょう。

“ブラック・スワン”のモデル化に焦点を合わせるのではなく、問題は、マルチ・アセット・ポートフォリオに利益をもたらす可能性のある”反脆弱な“投資があるかどうかです。

不動産のエクイティ投資は、経験的データから、“反脆弱な”性格が示されているように思われます。資産クラスとしての不動産は、マルチ・アセット・ポートフォリオに追加された時に、投資家にいくつかの重要なメリットを提供します。

不動産のボラティリティが低く、他の資産クラスと比較して相関が小さいことがそのメリットの要因になっています。

ショック、つまりは非対称に歪んだ右リターン分布を通じた不動産の長期的な実績は、マルチ・アセット・ポートフォリオのパフォーマンスが、不動産へのより多くの割り当てにより利益を得ていることを示唆してもいます。

とはいえ、当然のことながら、不動産投資は安全な投資だと言うつもりはありません。

生き残れる投資家になるためには、まず100ある“良さそうな”物件のうち、99に手を出したくなる誘惑を断ち切り、「これは!」という1を選び抜くまで慎重であり続けることです。

投資適格がある物件がゴロゴロ転がってるわけではないという常識を念頭に置いて判断すべきです。

もちろん、本来は投資不適格な物件であっても、金融政策その他諸々の条件から不動産市場に追い風が吹いている状況のおかげで、いわば“ババ抜き”に成功したというケースはあります。

しかし、後々になって顧みると、それは破綻と紙一重であったというのが大半です。

また、現時点では上手く行ったと思っていても、不動産投資は出口を確保し手残りのキャッシュが確定した段階で、投資トータルの成功不成功が判明するのであって、物件を大量に保有できていることを以って、投資に成功したと結論づけるわけには行きません。

市況いかんによっては、成功したかに見える不動産投資家が、実は破綻予備軍の一人に転化することなどザラにあることだからです。

税引後キャッシュフローが出づらい物件、節税を無理やりさせられる売却益が出にくい物件、土地割合が低く評価損がでやすく、継続してローンが受けられない物件、広告費や営業費が乗っかっていて割高な物件、資産圧縮できるが担保性が極端に低い物件、将来に管理費と修繕積立費用がかかる物件、利回りが決められていて、業者が儲けを食いつくしている物件、次の買い手が長期ローンが組めず、売却先が限られている物件、長期的に家賃下落が発生し、担保評価が低く、継続融資がつきにくい物件などなど、投資の初歩が見についていない人が不動産投資に手を出している昨今。

参入した者の少なくとも過半数は失敗が決定づけられている投資の世界で生き残るには、投資のための分析手法を自分のものにした上で、適切に物件を吟味できるようにならねばなりません。

そうすることによってはじめて、不動産という資産クラスの反脆弱性の恩恵を受けられるようになるのではないかと思われます。

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