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不動産投資ゲーム(中)

前回、ハーバード・ビジネススクールの選択科目の一つとなっていると不動産投資に関連する授業でテキストに使用されているという、ウィリアム・ポルブーとジェフリー・クルクシャンクによる『ハーバード・ビジネススクールが教える不動産投資ゲーム』(日経BP)を紹介しました。今回もその続きです。

ポルブーらは本書において、不動産投資を成功させるためには「バリュー投資家(value investor)」になることを学ぶことが最良の長期戦略であると主張します。バリュー投資家とは、適切な時期に適切な価格で物件を購入し、その資産価値を高めるための創造的なアイディアの持ち主のことで、バリュー投資家としての行動をいかに実践するかということを考えながら投資行動するべきであると説いています。

運用実績のある物件への投資に重点を置き、他の投資家が見落としている割安物件を見つけることに力点を置くタイプの投資家です。豊富な経験に基づいた注意深い観察力によって、平均以上のキャッシュフローや価値上昇をもたらす物件を探し出そうする投資家とも言えるでしょう。

この主要テーマと目的のために、不動産投資ゲームを視るレンズが重要になります。ポルブーらは、このレンズを2つに分けて解説しています。不動産投資ゲームを理解するために必要な1つ目のレンズは、①物件(properties)、②資本市場(capital markets)、③プレイヤー(player)、④外部環境(external environment)という4つの要素から成り立っています。

2つ目のレンズは、ゲームのプレイ(事業実施)の段階についてのレンズであり、プレイの段階を(1)構想から基本合意まで(concept to commitment)、(2)基本合意からクロージングまで(commitment to closing)、(3)開発(development)、(4)運営管理(operation)、(5)収穫(harvest)の5つの時期に分けて分析しなければならないということを前回確認したばかりです。具体的には、この2つのレンズ、特に第1番目のレンズについてポルブーらが具体的にどのように言っているかを見ていきます。

ポルブーらが強調する点は、不動産投資ゲームが他の多くのゲームと異なる理由の一つはプレイ(事業実施)が多様な変化に満ちているという点です。すなわち、①~④によって不動産投資ゲームが数か月で終了することもあれば、何年もかかることもあります。ほとんどの場合、事業終了までの時間を予想するのは難しい。

しかも、ゲームは時間とともに変化するのみならず、プロジェクトの性質・資金の源泉・関与する主体の構造によっても変化するわけですが、不変な点は、不動産投資ゲームでは意思決定に際してこれら4つの要素を考慮する必要があるという点です。

1つ目のレンズを構成する要素の1つは、①物件(properties)でした。改めて言うまでもなく、不動産投資ゲームの物件の種類は極めて多く、用途・地理的条件・規模・状態に応じて様々なタイプがあります。既に存在するものであるかもしれないし、素案の段階に過ぎないものもあります。短期間しか使用しない物件か長期間しか使用しない物件か、あるいは量産型かオーダーメード型かといった違いもあります。

次に、②資本市場(capital markets)があげられます。資本市場は、不動産投資という資本集約的ゲームの背景となるものです。不動産投資において、貸借対照表(B/S)における負債と資本に相当するもの。資本市場という手持ちのカードは、入手できる資金はいくらあるのか、その資金の源泉はどこか、その調達コストはいくらになるかといったことです。

この資本市場のグローバル化の進展が、不動産投資ゲームに大きな影響を与えています。資本市場の動向は一般に不動産市場とは独立した挙動を見せますが、資本市場での期待が開発対象物件の種類やその価格に影響を及ぼすこともあります。更に、借入金と自己資本比率いかんによって、不動産投資ゲームの参加者の母集団が決定される場合も少なくありません。

重要なことは、自己資金をどのくらい準備する必要があるのかということ。不動産ビジネスでは、他人資本の使い方が重要になってきます。このレバレッジに関係する考え方は、債務者を危険な状況に追い詰めるリスクを抱えると同時に、自己資本の投入を最小限に抑えるという意味ではリスクを減らすとも言えます。

次の③プレイヤー(player)は、不動産市場にある物件と資本市場の資金を結びつける役割を果たします。このプレイヤーには2つのタイプが存在し、一つは従来型のプレイヤー。小規模かつローカルで少人数からなる組織を持ち、起業家精神に富み、必要性に駆られて行動することが多い。業務のほとんどを外注化し、自己の資金ではなく他人の資金を使おうとするプレイヤーが一般的で、しばしばレバレッジがゲームの中心となります。それによって、限られた資源を大きく拡大させることができるからです。

ポルブーらがあげる2つ目のタイプのプレイヤーは、大企業それも巨大な企業であることが多い。建設会社やデベロッパーもいればサービスプロバイダーもおり、金融コングロマリットもいます。不動産投資信託のスキームを使う者もいるし、世界有数の投資銀行が出資する大規模なコミングルドファンドなどハイブリッドな形態もあります。

大型プレイヤーの多くは、企業合併や統合から生まれたものが多い。企業統合は大規模で分散投資が効いている上場会社を生み出すことによって、巨大金融機関による不動産投資を可能にすることを目的として行われます。これらの大型プレイヤーは垂直統合と水平統合した組織を特徴としています。それによって、様々な幅広い機能を持つことを目指しています。また、国内のみならず国際的な成長を目指すところも増えています。

更に、資本市場の変化に対応して形態を変えたプレイヤーもいます。大手不動産会社が株式会社からREIT法人に転換するような現象も見られます。逆の方向の戦略を講じる場合もあります。いずれにせよ問題は、どのタイプのプレイヤーになりたいと思い描いているかです。

最後の④外部環境(external environment)とは、不動産投資ゲームに影響を与えうる外部からの影響すべてのことです。例えば、税制や規制の変更、人口や雇用の動向、新しいテクノロジーや消費者の予期せぬ嗜好の変化などです。外部要因は混乱をもたらす場合もあれば、新たな機会(opportunity)を与えてくれる場合もあります。建物は劣化する。建物の使用方法も変化しうる。立地の評価も変わる。外部環境の変化がもたらす力によって不動産の所有は受身的なものではなく、能動的なビジネスプロセスになりえます。

ゲームに準える不動産投資の得点表をつくるとするならば、それは、(ⅰ)各プレイヤーにとって何が重要かを考え、(ⅱ)各プレイヤーが単純に財務的な数字の基準だけでなく、数量化の難しい基準によっても成果を測ることができる簡便な手段です。数量化が難しい基準としては、例えば社会への貢献、環境との調和、美的感覚、および個人の価値観といったものがあげられます。

不動産投資で多額の資金を失っても自分では「成功した」と考える人も中にはいます。低所得者向けの住居を提供したり、歴史的な建造物を忠実に修復したり、あるいは建築学的見地から見て斬新な建物を建築・開発することの方が金銭的な報酬よりも大切だと考える人もいます。

ですから、一概にかくあるべしとは言えませんが、不動産投資ゲームを利得の最大化を目的とする合目的的行動と解するならば、このゲームで要求されるスキルの内で最も重要なものの一つとなるのが数値分析になるとポルブーは指摘します。不動産投資ゲームで物件の価値を発見し、評価し、想像するためには、数字を自在に扱えなければなりません。

不動産投資の分野における定量分析には様々な方法があります。結局のところ重要なのは、分析の基礎となる前提条件、つまり数字の背後にある構造です。核心に素早く辿り着くためには大雑把なふるいにかけることが必要であり、またそれは時間の節約に役立ちます。忘れてはならないのは、不動産投資の目的は決して複雑なものではないということです。物件を購入し、将来のどこかでその価格よりも高く売り、それにより投下資本に対する合理的利益(時間とリスクの点から妥当と判断される利益)を獲得しようとすることが目的です。

この課題に応えるためにポルブーらが展開する数値分析の方法があるのですが、これについて次回にまわしたいと思います。

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