U&A
公式ブログ

不動産デリバティブへの期待と今後の課題(中)

不動産のリスク資産化や企業会計時価を反映させる制度変更等を背景として、今後不動産デリバティブの登場への期待が高まっていくと言われてから久しいものの、我が国では、賃料保証契約等のデリバティブ的な契約や一部相対取引を除いて、本格的な不動産デリバティブと言えるものは未だ登場していません。

前回で確認した通り、一般にデリバティブとは原資産の価格変動等のリスクをヘッジするために生み出された手法でした。したがって、不動産の価格変動リスクをヘッジするための不動産デリバティブを適切に組成するためには、そのリスクに対応した原資産を適切に選択する必要があります。

この不動産デリバティブの原資産にあたるものを何に置くかという点が問題になりますが、不動産価格はその筆頭候補になりうるでしょう。その他にも、賃料や空室率などの数値指標や、地震などの自然的な事象も原資産になりえます(金融の世界では、天候デリバティブはごく普通に流通しています)。原理的には、どんなものでもあってもデリバティブを組成することはできるでしょうが、最もヘッジ効率のよい原資産を選択しなければ、適切なデリバティブの組成を期待できません。

また、不動産デリバティブ市場が機能するためには、不動産市場に対してリスクヘッジしたい売り手と、ポートフォリオ分散を図る買い手の意思を合致が成立する場が必要です。また、将来の不動産価格の変動をヘッジしたいと望む売り手と、不動産を保有することなく不動産に投資したいと望む投資家である買い手のニーズをともに実現する手段でもあります。その意味において、将来の不動産価格の変動に対する情報提供の役割をも不動産デリバティブは担うことが期待されます。

不動産のリスクをヘッジするための不動産デリバティブという仕組みという位置づけですが、具体的に不動産にどのような具体的なリスクがあるのかというと、賃料変動リスク・価格変動リスク・自然災害リスク・減損会計リスク・流動性リスク・信用リスクなどがあります。しかし注意すべきは、企業や家計として個々の投資家といった経済主体別に保有している不動産リスクは自ずと異なるという点です。

そもそも、リスクの取り方が異なるのです。例えば、リスクを積極的にとりにいく機関投資家や不動産ファンドもあれば、できればリスクをとりたくないと思っている家計もあるし、ビジネス上不動産リスクを取らざるをえない企業もあります。

一般に、リスクとは将来における不確実性であり(厳密には、フランク・ナイトが指摘するように、リスクと不確実性とは異なる概念ですが、ここではそうした差異を無視して議論をすすめます)、経済的な意味においては、その不確実性が存在する結果として経済的損失を被る可能性と思っておいて下さい(リスクと言っても、色々な意味が含まれており、通常はボラティリティとしての意味を帯びることが多いように思われますが)。

再度確認する通り、デリバティブ(派生金融商品)とは、その価格(現在価値)が他の証券・商品・事象等(原資産)の価格や指標に依存して決定されるような金融商品であり、不動産デリバティブとは、原資産が不動産に関わるインデクスや事象であるところのデリバティブです。

取引手段の形態としては、一般的に、先物・オプション・スワップの3つの形態がありますが、広義においては、証券化商品や住宅ローンや保証契約等もデリバティブに含まれると言っていいかもしれません。すなわち、不動産の価格、賃料そして空室率等をヘッジするための金融派生商品(先物、オプション、スワップ)だけでなく、不動産を担保にした融資のための証券化商品や賃料や空室率を保証する契約等も「不動産デリバティブ」として最広義に捉えることもできます。

このように、不動産デリバティブとして考えられものは多岐にわたります。しかし、一般的に不動産デリバティブとして想定されているのは、先物・オプション・スワップに対応する不動産先物・不動産オプション・不動産スワップの3種類が想定されるため、ここでは、その3種類について確認しておきます。

①不動産先物取引

実物不動産を取引するのではなく、将来のある時点における不動産の価格やインデクスの値を売買する取引です。

例えば、不動産を保有している人が不確実な将来の価格をヘッジしたい場合、不動産インデクスの先物を売却すれば良いということになります。仮に、将来において不動産価格が下落したとしても、不動産インデクス先物からの利益によって不動産価格の損失分をカバーすることができるからです。

この場合、リスクとそのリスクがどのようにヘッジされるかと言うと、不動産先物の買い手は将来まで待っていると買えないかもしれないというリスクがある一方で、売り手は将来時点まで待っていると売れないかもしれないというリスクを抱えています。

こうした状況から、将来時点における価格を現時点で決めておくことができれば、それによって取引を行い両者の抱えるリスクをヘッジすることができます。もっとも、不確実な将来を確実にして価格変動リスクを除去できますが、逆に不動産価格の上昇によって利益を得る機会を失ってしまうこともあります。

②不動産オプション取引

実物不動産を取引するのではなく、不動産価格やインデクスを一定期間内に現時点で定められた価格で売買できる権利の取引です。

例えば、不動産を保有している人が将来の不動産価格の下落をヘッジしたい時、不動産インデクスのプット・オプション(何かを売る権利を買う代金(プレミアム)を支払って、特定の原資産を特定の価格(行使価格)で行使期限内に売る権利を得ること)を買えばよいということになります。

こうすることによって、仮に将来時点において不動産価格が下落したとしても、不動産オプションからの利益によって保有不動産の価格損失分をカバーすることができるようになります。

反対に、将来時点において不動産価格が上昇する場合も、オプションから利益を得ることができます。この場合、コール・オプション(何かを買う権利を買う代金(プレミアム)を支払って、特定の原資産を特定の価格(行使価格strike price)で行使期限内に買う権利を得ること)の買いの戦略をとれば良いということになります。

③不動産スワップ取引

実物不動産を取引するのではなく、不動産から得られる収益を二者間で交換する取引である。

例えば、不動産所有者が不確実な将来のキャッシュフローをヘッジしたい時、不動産スワップを他者と取引すればよいということになります。不動産から得られるキャッシュフローを他者に支払う一方、他者から異なるキャッシュフローを受け取るわけです。

仮に、将来において不動産から得られるキャッシュフローが下落したとしても、他者から固定されたキャッシュフローを受け取ることが可能になります。同時に、その他者にとっても、固定されたキャッシュフローを支払うことにより変動金利等との差額から収益を得ることが可能になるというメリットがありますし、不動産に直接投資せずして不動産から得られる収益と同等のキャッシュフローを得ることができるわけです。

不動産デリバティブで想定されている先物・オプション・スワップについて軽く触れるにとどめましたが、次回は、その詳細と不動産デリバティブの可能性と課題について触れていくことにします。

関連記事一覧