不動産は金融機関が最も信用を置く担保価値のある資産です。金融機関の貸付債権を被担保債権として不動産に抵当権を設定することを経験している人は多いでしょう。“抵当権”は一般に馴染みのある担保物権ですが、“根抵当権”は、さほどよくは知られていません。
抵当権を設定している物件の売買には慣れている不動産投資家でも、根抵当権となればあまりよくわからない、違うということは理解できても抵当権の内容を少しいじくったものくらいの認識という方もおられるでしょう。法学部の民法の担保物権の領域でも、抵当権ほど深く教えられることはありません。
しかし、抵当権と根抵当権はかなりの部分異なっており(つまり、抵当権の特徴である付従性、要するに担保の対象になる債権が存在しないならば、抵当権は消滅するといった性質がないなど)、取り扱いには少々慎重になった方がいいかもしれません。もちろん、根抵当権が設定されているから直ちに問題であるとわけではないので、誤解なきように。
それはともかく、根抵当権が設定されている物件の売却にあたって進められる手続きについて確認しておきます。
(1)残債確認と売却不動産査定額の確認
残債確認の上で、売却不動産の成約想定価格が残債を上回る場合、残債を完済して金融機関との交渉に進みます。先述の通り、根抵当権は被担保債権との付従性はありませんが、残債が存在すると、そもそも金融機関との交渉が成立しませんから抹消手続などできません。
売却不動産の成約想定価格が残債を下回る場合、残債があっても売却可能な任意売却や他不動産の担保提供をするなどの必要が生じてきます。
(2)元本確定
金融機関との交渉が成立したら、元本確定の手続きに移行します。元本確定とは、根抵当設定契約時に定められた極度額の範囲内における融資を停止した上で、これまでの借入額と返済額の確定手続です。元本確定が済むとすれば、金融機関から根抵当権の抹消登記用書類が送付されます。ここから具体的な根抵当権の抹消手続きが始まります。
(3)根抵当権抹消登記
根抵当権を抹消する“最終的”手続きは、一般的な抵当権の抹消手続きと変わりありません。不動産の売却手続を進め、不動産の所有権移転登記を行う時機に合わせて根抵当権抹消登記を行います。この際、金融機関からは、
(A)登記原因証明情報
根抵当権解除証明書など。解除日が記入されているか、またその解除日に誤りがないか要確認。
(B)抵当権設定契約書
登記済証など。根抵当権を設定時と比べて記載されている不動産の所有者・住所に変更があると、住所変更などの手続きが必要となるので要注意。
(C)会社法人等番号の記載されている書類
代表者事項証明書など、資格証明書の一部の書類には効力を発揮できる有効期限が3ヶ月となっているものもありますので、要注意。
(D)不動産所有者の委任状
(E)抵当権者(金融機関など)の委任状
根抵当権抹消登記を司法書士へ依頼する場合は、不動産所有者が個人で取得するべき書類はありません。但し、根抵当権の抹消手続きを進める際は、認印と運転免許証などの本人確認書類を用意する必要はありますので、ご注意ください。申請後10日から14日程度で完了します。