メタバース不動産の可能性(後)

メタバースは今後数年間で驚異的な成長が見込まれていますが、但し、まだ安定とはほど遠い。その不安定性の一つは、メタバース・プラットフォームが完全にオフラインになると、そのプラットフォーム内のすべての”土地“と資産が存在しなくなる点です。

加えて、価値評価の問題もあります。“希少性”が人為的であり、将来の価値を定量化できない”土地“に、どのように価格を割り当てるかという問題が常に存在します。その価格は非常に不安定な仮想通貨(暗号資産)に依存しているため、メタバースの”土地“も不安定な状況の影響を受けやすくなってしまいます。

不確実性が蔓延るメタバース資産への投資は、極めて投機的なものです。リスクが大きいと言うのはまだ控えめな表現でしょう。仮想世界では、瞬く間にすべての投下資本を失う可能性があります。しかし、ほぼ全ての業界で完全なデジタル化への急速な移行は、メタバース不動産投資から大きな利益を得る可能性も当然のことながら示唆しています。

投資をするかしないかの決定の前に、まずはメタバースについてできるだけ多くのことを学んでおく必要があります。リスクと課題を理解し、潜在的なメリットと比較検討し、長所と短所を調査した後でのみ、決定を下すことが重要です。

とはいえ、我々はメタバースを無視して済ますわけにはいかない時代に向かいつつあるのは確かでしょう。つまり、現実生活と同様にデジタル生活を送る、接続された永続的バーチャル・リアリティの空間を仕事、遊び、社交、学習に使用することが当然の営みとなり、現実世界でできることはたいてい、家を出ることなく対話できるメタバースの“デジタル・ツイン”になる。

諄いようですが、“メタバース不動産”は、大きなビジネスとなることが必至でしょう。事実、Snoop DogやPwC、JP Morgan、HSBC、Samsungなどの名だたるグローバル企業は、様々な目的で開発予定の仮想LANDを獲得しています。早期参入した人は、既に大きな利益を上げています。先述の通り、2つの最大のメタバース・プラットフォームであるDecentralandやSandboxで購入できる最小の土地の平均価格は1,000ドル未満だったのが、1年経たないうちに約13,000ドルになってしまいました。

この現象を、10年前のビットコインや2年前のNFTとは別の、ブレイクする前に最新のデジタル資産を入手する新たなチャンスと見るべきなのでしょうか?参入したい場合、どのようにするか?それとも、崩壊寸前の過剰に誇張されたバブルになる可能性があるものから距離を置いた方がよいのでしょうか?もちろん誰にもわかりません。

現実世界で土地を購入するのと同じように、メタバースで土地を購入する主な理由は2つあります。例えば、事業を行うための“建物”を建てたりするために使用します。メタバースでの“生活”について話す時、我々は自分の持ち物を見せびらかしたり、友達と集まったりできる“家”と呼べる場所を持つことを意味します。これは、ソーシャル・メディアに移行する前の、インターネット黎明期に個人用のWebページを持っていたようなものです。これが、メタバースの“土地”を所有したいと人々が思う第一の理由です。

第二の理由は、専ら投資目的のものです。もちろん、他の投資と同様に、その価値が上がるという保証はないため、状況が不安定になる可能性があります。しかし、“メタバース不動産”に関して言えば、過去1年間で平均価格が10倍以上に上昇しています。多くの人がデジタルLANDを購入しているのは、将来ますます多くの人々が参加したいと思うようになるとデジタルLANDの価値が更に高まると単純に信じているからです。既に賃貸市場も出現しており、現物の収益不動産を取得して賃貸に回して、そこから収益を上げる不動産投資と同様、賃貸物件として回すために購入する人もいます。

何度か言及している通り、“メタバース不動産”の購入は仮想通貨(暗号資産)で行われます。イーサリアムは、SAND (ゲーム化されたメタバース・プラットフォームThe Sandboxに接続された通貨) やMANA (コミュニティベースのDecentralandプラットフォームに接続された通貨)と同様に、一般的な選択肢となっています。

これらの2つのプラットフォームは現在、オンラインの“土地”と資産を所有する際に人気があります。これらには、十分に確立されたインフラストラクチャと、上記の有名人や企業などの他の有名な家主やテナントが既に存在していているからです。

これらのプラットフォームのいずれかでの“土地”の購入は、プラットフォーム自体から直接行うことができ、メタバースの土地の販売と所有権はNFTの譲渡によって記録されるために、これらを貯蓄できるウォレットとしてMetamaskとBinanceが人気のあるウォレットとなっているようです。

もちろん、プラットフォームからの直接購入のみならず、現実世界の不動産と同様に、再販業者の市場も存在します。opensea.ioやnonfungible.comなどのプラットフォームは、デジタル・ドメインの分散型不動産エージェントとして機能し、売り手が自分の不動産と価格を提示し、買い手が交渉できるようにしています。

最後に、そもそも“メタバース不動産”なるものの購入は安全か?この点については、絶対確実なことは言えません。特に、大金を投じることを考えている場合は尚更そうです。仮想“土地”の購入は、仮想通貨(暗号資産)やNFTを購入するのと同様に、確かに危険度のある投資かもしれません。

市場を適正にコントロールする規制は未整備と言わざるを得ませんから、買い手の保護がどこまで確保されているか不明な点が多々あります。売り手が詐欺師であることが判明し、金を持って姿を消すなど何か問題が発生した場合、賠償を求めるツールも未発達であることも気になります。

たとえ自分が騙されない場合でも、危険度を更に高める可能性ある技術的懸念事項もあります。取引は仮想通貨(暗号資産)とNFTで実行されるため、これらを安全に保管できること、および盗まれないことを確信する必要があります。

パスワードを覚えている限り、全てがスマート・コントラクトを使用してブロックチェーン上で保護され安全に暗号化されているため、誰かがバーチャル不動産を盗んだり、家賃の支払契約を破棄したりするリスクは、今のところ最小限に抑えられていますが、これも絶対ではありえません。ましてや、量子コンピューティングが本格的に導入されるテクノロジー的進化によって現在の暗号化セキュリティ対策が時代遅れになる可能性があるという懸念も払拭しきれません。これは、今すぐには問題にならないでしょうが、大規模で長期的な投資を検討している場合は、留意しておくべき点であるに違いありません。

次の懸念事項は、“希少性”の問題です。現実世界の土地は、主に有限の資源であるという事実により価値が上昇しており、土地所有に関心を持つ人々の人口は増加傾向にあります。対して仮想世界では、利用可能な土地の量は潜在的に無制限です。プラットフォーム上の全ての仮想区画が売却されても、購入者からの需要がまだある場合、開発者が必要なだけ多くの区画を作成することを最終的に止めることはできません。現在、大規模なプラットフォームは土地の量に制限を設けており、“人工的な希少性”を強制していますが、これが常に当てはまるという保証はありません。

”メタバース不動産“への投資の成否は、長期的にはひとえに、メタバース自体の将来に依存します。確かに、FacebookからMicrosoftやNvidiaまで、影響力のある組織は、それが本質的にインターネットの“次世代”であることに大きく賭けています。それが正しいことが判明した場合、メタバースは、過去20年間にワールド・ワイド・ウェブがそうであったように、今後20年間でビジネスと社会にとって重要であり続けるでしょう。その場合、”メタバース不動産“は、魅力ある投資対象として映るに違いありません。

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