債務回収比率(DCR)という指標

投資の安全度を見る指標の一つに、営業純利益(NOI)と年間返済額(ADS)との差から割り出される“債務回収比率(DCR=Debt Coverage Ratio)”という指標があります。“借入金償還余裕率”とも“負債安全比率”とも言われ、不動産投資において、純収益を元に負債の返済能力を見る指標として投資安全度を判断する際に活用されており、金融機関も当然利用しています。これは単純に、DCR=NOI÷ADSで求められます。

様々なタイプの不動産投資家が存在しますが、ごく稀に、利回りだけを見て投資判断をしている人を見かけます。もちろん、近い将来金利が上昇した場合にどうなるのか、あるいは家賃の下落や空室の発生などを踏まえて、ローン返済との関係を一定の時間間隔の中で考えている投資家もいて千差万別。

不動産投資は、現状把握だけでなく中・長期的計画が必要であり、金利上昇時などに対応できるように、綿密なローン返済シミュレーションを行わなければ災難に遭いかねません。購入時での収益状況はもちろん重要ですが、それよりも安定した運営が可能かどうかという観点から投資判断をしないことには、“ダイナマイトの樽”の上で胡坐をかいているようなもの。

借入割合が大きくなれば大きくなるほど、この指標は危険と判断される方に変化します。実際の分析では、税引後キャッシュフローを見て、減価償却や元本・利息の負担割の変化から収支上は黒字でもキャッシュフローが赤字になる“デッドクロス”を早々に迎えてしまうケースも頻繁に目にしますから、この観点からの分析も必要となってくるはずです。

DCRは、ローンをくんで収益物件を購入・運用する場合、NOIがローン返済額と同額でキャッシュフローが出ない状態の時に“1”になります。そして、この“1”に満たない場合、収益に占める返済額の割合が高過ぎることになり、いわば“持ち出し”が発生していることを意味します。金利上昇、運営費上昇、空室率上昇、家賃下落など、当初見通しより少しでも計算が狂うと、破綻へとまっしぐらというわけです。

不動産投資はあくまで副業であり本業収入等で補填可能であるという人ならば、辛うじて運営を継続することはできるとしても、“投資”としては失敗しています。しかも、天災や社会状況の変化等により入居状況に変化が生じると、さすがにその損失に耐え切れない。

NOIは概ね新築時がピークで経年とともに低下する傾向にありますから、DCRが“1”というのは極めて怖い。この時点で既に、断崖絶壁の先端部分につま先だけで立っているようなものです。金融機関は債務回収比率としてのDCRを算出しますので、こういう状況では、金融機関は融資実行を拒むこと必至。融資の最低条件としてDCR=1.2を要求するのが普通ですから、1.2未満だと論外です。あくまで1.2は最低ラインであって、1.4~1.5くらいまで欲しいところです。

DCR=NOI÷ADSですから、DCRの数値を上げるには、分子にくるNOIを上げるか、もしくは分母に入るADSを下げるしかありません。NOIを上げるには、家賃収入を上げたり経費を減らしたりする工夫が必要となりますし、ADSを下げるためには融資申込額を下げるか返済期間を延ばすことが必要になります。

しかし、返済期間を延ばすことは、金融機関からすれば金利収入が多少増えるとはいえ、返済管理期間を引き延ばすことにもなりリスクと判断されるかもしれません。借入側も金利総額が上がるわけですから、この点も考慮しながら判断しなければならない。金融機関にとっては、債務回収比率として回収可能性を測る指標として利用されるDCRも、投資家サイドからすれば、ある程度の余力を持った投資であるのか否かを事前に察知するための一つの判断材料を提供してくれるものになります。

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