不動産投資には、投資分析のための様々な指標がありますが、今回は、投資理論の中の指標というよりも、土地の潜在的収益性を見るための一つの指標として現に使用され、かつ誤用もそれだけに目立つ「一種単価」というものについて触れてみたいと思います。
建物を建築することを予定している用地を仕入れる立場にいる人ならば、当然のことながら馴染みのあるこの指標。実は、誤解して使用されているのではないかと思われることに出くわすこともしばしば。
単刀直入に言うと、「一種単価」とは、ある土地に許容される容積率の上限を消化して建築物を建てた場合の床面積あたりの土地単価のことです。あまりに知られているがゆえに、誤解している人も多いこの「一種単価」の使い方について確認しておくことにします。
その前に、建蔽率と容積率の確認から始めます。建蔽率とは、敷地面積に対する建物の面積の割合(建蔽率(%)=建築面積÷敷地面積×100)であり、例えば、面積が100㎡の敷地に60㎡の建物までなら建てられる場合、建蔽率は60%となります。
建蔽率は、自治体により用途地域別に定められていますが、この用途地域とは、住宅地、商業地・工業地など、都市が計画的に土地利用を行う為に定めたエリアのことであり、それぞれの目的に応じた13種類の用途地域に指定されています。
容積率とは、敷地面積に対する延床面積の割合(容積率(%)=延床面積÷敷地面積×100)を指します。容積率には、都市計画法上の制限だけでなく、建築基準法上の前面道路による制限が課せられます。敷地に面している道路の幅員が12m未満の場合、道路幅員に、4/10(住居系エリア)あるいは6/10(商業エリア)など一定の値を掛けた数字と行政の定める容積率のいずれか低い割合の容積率で建築しなければいけません。
容積率の上限が300%に定められた住宅地があるとします。例えば、敷地は5mの道路に接しているとするならば、5×4/10×100%=200%となり、200%は300%より小さい数値なので、200%の容積率で建てなければならないことになります。
容積率をなぜ定める必要があるのか。それは、住戸と下水・周辺道路等のインフラのバランスのためです。例えば、下水処理能力が不十分なエリアでタワーマンション等の高層マンションをいくつも建ててしまったがために俄かに人口が増えてしまうと、当然にそのマンションも含むエリアにおいて、下水等の処理能力が追いつかなくなります。街中、汚水が溢れ、挙句には、「う◯こタワー」だの「う◯こマンション」だの「武蔵う◯小杉」とおちょくられることにもなります。
あるいは、後先考えずに鉄道の最寄駅の収容人員を無視して、駅の近くにタワーマンションを林立させてしまうような無茶苦茶な開発をすれば、朝の通期ラッシュ時に駅への入場制限がかかり、改札を通るのに30分もかかってしまうという悲喜劇が起こってしまいます。具体的にどこかとは言いませんが、2019年10月の台風19号を思い出せばおわかりになるでしょう。
先述の通り、土地購入を検討する際に、その土地の潜在的収益性をはかる指標として“一種単価”があります。ここで“潜在的”と表現したのは、既存建物が存在し、単に当該建物を収益物件として保有するかしないかの判断に際しては、「一種単価」は大した意味を持たないということです。あくまでも、その土地に許容された容積率を最大限消化したならば、その時の床面積あたりの土地の単価がどれぐらいになるのかを示すもの、あくまで“潜在的”な収益性を見るための指標であるということです。
土地に建物を建築する立場の人や、そういう人に用地をおろす側の人などにはなくてはならぬ指標ではありますが、既存の収益不動産を買い取り、それを高値で転売することを企図する投資判断においては、完全に不要とまでは言いませんが、もっとよく見なければならない指標があるということです。しかし、よく見られる誤解の大半こそ、収益不動産としてビル等を購入するかしないかの判断にも「一種単価」を持ち出すことなのです。
一種単価とは、容積率100%当りの土地単価。すなわち、土地に対して容積率ギリギリまで消化して建物を建てた際の床面積あたりの土地単価。一種単価は、土地の潜在的収益性をはかる一つの指標であり、既存収益物件の収益性評価に際して直接使う指標ではありません。
一種単価の求め方は、「土地面積」・「容積率」・「土地価格」の3つを使います。一種単価は、先に坪単価を求めて、容積率で割って算出します。坪単価は、(土地価格)÷(土地面積(坪))です。一種単価は、(坪単価)÷(容積率÷100)で求まります。
簡単な例を出しましょう。土地面積が100坪だとして、容積率が200%で、価格が8000万円だとします。坪単価は、8000万円÷100坪=80万円/坪となります。そうすると、一種単価は80万円÷(200÷100)=40万円。この土地の一種単価は40万円になります。この土地の容積率がもし400%であるなら、一種単価は20万円になります。
くどいようですが、一種単価とは、その土地の上限容積率ギリギリで建物を建てた際の床面積あたりの土地単価です。したがって、容積率以外の条件が同一であれば、容積率が高いほど収益性が高い土地と言えます。
とはいえ、そう単純には判断するわけにもいきません。実際の容積率は変わることがあります。前面道路幅員によって容積率が減少したり、斜線規制等で建てられる建物のボリュームが減少したりすることは頻繁にあります。逆に、角地などは容積率緩和による加算もあります。
それに、容積率にはマンションの共用廊下などの部分は含まれません。加えて、実際に建物を建築するにしても、地域の特性やニーズ、最寄駅からの距離など様々な要素を総合的に勘案して当該土地の潜在的価値を判断しなければならないので、一種単価は、それ以外の要素がほぼ同一という条件を設定した場合の、当該土地の潜在的収益性を大まかに比較検討するための数値くらい考えておくと良いでしょう。