不動産クラウドファウンディング事業の隆盛

不動産特定共同事業法を利用した不動産クラウドファウンディング事業が好調のようです。不動産特定共同事業とは、複数の投資家が共同事業として不動産に出資し、不動産取引や運用を介して収益を分配する事業であり、その規制法である不動産特定共同事業法は、1994年6月29日に施行され、数度の改正を経て今日に至っています。多くの投資家から出資を募ることでロッドの大きい物件を扱えるようにして、不動産の共同事業の健全な発展を通じて不動産の効率的な利用・開発を間接的に促すと同時に、出資者である投資家を一定程度保護することを目的として制定された法律です。

施行直後は、利用のためのハードルが若干高かったために、ごく一部の業者にしか利用されることのなかった同法も、数度の改正によって使い勝手が良くなり、投資に関心を持つ層の裾野が拡がったこともあって、ここ数年の間で不動産クラウドファウンディング事業は飛躍的な伸びを示してきました。

事業会社の資本金や出資金要件緩和によって、中小規模の事業者の参入できるようになり、インターネットを通して資金を集める仕組みを扱う事業者についての業務管理体制や規定整備ならびに投資家に交付する契約締結前書面のインターネット上での実施を認める規定などクラウドファウンディングを始めるにあたっての環境整備が構築されてきました。資金調達手段としての特別目的会社(SPC)を活用した特例事業の門戸が開放され、さらには、新設法人における不動産特定共同事業の許可基準が明確になり、参入事業増加や活発化の促進がなされました。

事実、不動産クラウドファウンディング事業に出資された額だけ見ても、3~4年ほど前の10倍ほどの伸びとなっており、今春でも、いくつかの中堅ディベロッパーが企画した不動産クラウドファウンディング事業の募集が開始直後に満額に達する事例も見られるほどの人気です。

不動産特定共同事業の規模が拡大してきた背景は、先述の通り、不動産特定共同事業法が改正され使い勝手が良くなったという点もさることながら、不動産証券化技術の進化、ファンド組成による不動産ビジネスの知名度の向上、資産運用に関心を持つ個人投資家の裾野の拡大、そうした個人投資家の投資意欲を効率よく吸収するネット取引の普及、金融機関の融資姿勢の変化など複数の原因が積み重なったことの帰結と言えるかもしれません。

加えて、中堅規模の会社がこのビジネスに乗り出してきたのは、小規模物件の証券化においてネックとなっていた証券化のための多額のコストが、契約書やデューデリジェンスなどの費用の定型化・簡易化の進行、準備期間の短縮化、コストダウンの実現によって、数億円程度の小口案件の証券化であっても採算が取れるようになってきたということも影響しているものと思われます。

従来、不動産証券化を行うためには、スキームの合法性チェックや参加者間の契約締結のために、弁護士が契約書を膨大な時間と手間をかけて作成したり、環境会社が行う土壌汚染調査やゼネコンなどによる建物のエンジニアリングレポートあるいは地震リスク調査や不動産鑑定評価及び必要に応じて格付機関の格付取得など複雑で膨大なステップを経る必要がありました。

これら一連の工程に要する時間とコストを考慮するならば、少なくとも数十億円規模の証券化でなければ事業採算が取りづらかったところ、経験を重ねるごとに証券化プロセスのデータベース化・モジュール化が進み、それによって契約やデューデリジェンスなどの定型化・簡易化が可能になり、組成ロットの小さい証券化でさえも採算が取れるようになってきたということです。

不動産の金融化傾向は不可避の流れであって、おそらくその動きは金融技術の一層の進歩によって不可逆的な動きとして認めざるを得ない状況の中で、不動産小口化商品ならば投資可能な投資家の需要をうまく吸収することに成功したとも言い換えることができます。証券化技術が発達すると、資産のオフバランス化や新たな資金調達手段の確保あるいは既存資産のバリューアップなどを総合的に実現しやすくなることでしょう。

土地の有効活用をうたった建築請負会社などは、金融機関とタイアップして個人投資家向けのノンリコースローンを利用した、不動産証券化を伴わない融資形態での不動産商品を売り出しています。融資対象は数千万円規模のアパート等が対象となりますが、ノンリコースローンの小ロット化も進んでいっています。これも、不動産の金融化傾向の一つとみることができるでしょう。

単一のSPCを用いて複数のノンリコースローン案件を随時組成することが可能となるマルチアセットプログラム(MAP)と呼ぶスキームでは、ローン金額で数億円くらいの小規模不動産にも対応可能です。通常のノンリコースローンと比較しても、SPC設立と運営に係るコストが大幅に低下し、そのことによって、小規模案件でもさほどのコストをかけずにノンリコースローンによる資金調達が可能になっています。

土地の有効活用をうたった建築請負会社などは、金融機関とタイアップして個人投資家向けのノンリコースローンを利用した、不動産証券化を伴わない融資形態での不動産商品を売り出しています。融資対象は数千万円規模のアパート等が対象となりますが、こうしたノンリコースローンの小ロット化も一方で進んでいます。これも、不動産の金融化傾向の一つとみることができるでしょう。

先述の通り、不動産証券化をともなうファンド組成が盛んですが、その大半はSPCを営業者とし、匿名組合による出資を募る方法もあります。但し、この方法では社債発行できない場合で、資金調達はノンリコースローンによる借入と匿名組合出資を組み合わせたものになり、小規模な証券化に利用できますので、小規模の業者にとっても参入のハードルは高すぎるということはないでしょう。

投資家にとってのメリットが注目されがちな不動産証券化の技術ですが、もちろん不動産業者にとってもメリットがあります。例えば、証券化された不動産を運用して管理業務を受託したり、テナント募集・仲介による手数料収入を得たり、ファンドの出口での売却に伴う手数料収入の獲得といった一連の流れのどの段階でもビジネスになりえます。さらに、その地域で先行して不動産証券化を手がけた実績そのものがその業者の信用力を上げ、先進的業者としてブランド力を高めることになるので、業域拡大に繋がることにもなります。

いずれにせよ、不動産の金融化傾向という趨勢から、既存の不動産投資のあり方とは別の投資スタイルが一般投資家にとっても身近な存在として親しまれていく日が来るように思われます。

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