不動産投資ゲーム(後)

不動産投資に限らず、何にしても重要なことは、時間を効率的に使うことです。“不動産投資ゲーム”を行うにあたってポルブーが時間節約に資する簡易分析方法としておすすめするのが、BOE分析と呼ばれる方法です。不動産投資機会の評価には、このBOE分析でかなりのことがまかなえるとポルブーは主張しています。

たいていの場合、実務家は投資案件を詳しく分析する前に、より簡便な分析作業を行うものです。簡便な分析だけでは信頼度はやや劣るかもしれませんが、重要なのは、分析の基礎となる前提条件つまり数字の背後にある構造です。核心に素早く辿り着くためには大雑把な篩にかけることが必要であり、それは時間の節約にも資します。

不動産投資は、他の投資と比べて、さほど複雑な構造を持つものではありません。乱暴に言ってしまえば、物件を購入し、将来のどこかでその価格よりも高く売り、それにより投下資本に対する、時間とリスクとを考慮した上で妥当と判断される利益を獲得しようとする合目的的行動です。但し、そのためには必要最低限のスキルが求められます。

不動産投資ゲームで要求されるスキルのうち、最も重要なものの一つが定量分析です。不動産投資ゲームで、物件の価値を発見し、評価し、ありうるリスクをマネジメントするためには、数字を自在に扱えなければなりません。

不動産投資ゲームで最も大切な課題の一つは、時間を効率的に使うことでした。そのための方法が“BOE分析”と呼ばれる方法です。ポルブーは、ハーバード・ビジネススクールの教え子や知人の具体例、例えばウォルサムの倉庫のケース、コンコードのオフィスビルのケース、マドリードのショッピングセンターのケース、フェニックスの物件売却のケース、ウォータータウン兵器庫のケースなどを持ち出して、その妥当性をBOE分析から検討しています。

その内容に触れるとかなりの紙幅を要するので、この点についてはポルブーらの著書を参考してもらえればと思います。一言しておくと、内容は投資分析指標を用いる分析ですから、馴染みのある方が多いだろうということです。特に、不動産投資ファンドやデベロッパーとして、投資分析や市場分析を毎日やっている方にとっては当然の知識ですから、改めてその意義を確認するのにお役に立つのではないか。

あらゆる投資に妥当するわけではありませんが、こと不動産投資ゲームに関しては、「バリュー投資家(value investor)」になることを学ぶことが最良の長期戦略であるとポルブーらは指摘していました。バリュー投資家とは、適切な時期に適切な価格で物件を購入し、その資産価値を高めるためのアイディアの持ち主のことで、バリュー投資家としての行動をいかに実践するかということを考えながら投資行動するべきであるというのです。

バリュー投資家の特徴の一つは、運用実績のある物件への投資に重点を置き、他の投資家が見落としている割安物件を見つけることに力点を置くタイプの投資家です。豊富な経験に基づいた注意深い観察力によって、平均以上のキャッシュフローや価値上昇をもたらす物件を探し出そうする投資家とも言えるでしょう。

バリュー投資家といえば、すぐに思い浮かぶのは「バリュー投資の父」と呼ばれ、名著『証券分析』を著したベンジャミン・グレアムとその弟子ウォーレン・バフェットでしょうか。バフェットは、コロンビア・ビジネススクールでグレアムに学んだ後、グレアムが経営するグレアム・ニューマン・コーポレーションで約2年間、証券アナリストとして勤務した経験があります。

バフェットの分析手法は詳らかにはなっていませんが、伝えられているところでは、対象企業を徹底的に分析し、(各企業の財務諸表を徹底的に読むこむことを日課にしているそうです)、本質的価値よりも安い株価で購入して原則として中長期間保有する戦略をとります。株価は企業の本質的価値と乖離して大きく上下に変動することもあるが、基本的には本質的価値を中心に動くという理解に基づいて投資判断をしています。

もちろん、投資対象は若い頃と一定の時期以降とでは異なる点も注目されます。バフェットの最初の投資対象となった企業は、業界2番手3番手のいわゆる「シケモク会社」でした。更に、本質的価値の算出が収益性よりも資産価値に重点を置いてなされていたという特徴があります。

バフェットが賢明だったのか、それとも運が良かったのか、それはわかりませんが、師であるグレアムが1929年の大恐慌の頃に逃げ遅れて大損した二の舞を演じずに済んだということです。すなわち、シケモク会社の株価が暴落する前に高値で売り抜けることに成功したからこそ、今日も生き残っているわけです。

それから、すぐ新たな投資先に資金を投下するというようなことはしませんでした。1968年頃は市況が盛況で、割安株を見つけ出すのは困難だったからです。3年間しばらく、どこの株も購入せず、ひたすら考えながらチャンス到来を待つことに徹したのでした。

バフェットの考え方によると、世の中には、ほんのわずかにしか存在しない優良企業とそうでない企業の2種類の株しかありません。ほんの僅かな超優良企業とそうでない企業です。バフェットの若い頃と、ある時期以降の投資行動において決定的な違いがあるとするならば、購入する株式の対象が、永続的な競争優位性を持つ企業中心になったということかもしれません。

先程、中長期的保有が原則であると述べましたが、シケモク株に関しては必ずしもそうではなく、株価がピークを迎えるかの時点で売却していたという点も、異なっているのかもしれません。

私個人としては必ずしも好みの投資スタイルではありませんし、ことデリバティブ取引などについてはバフェットの投資手法は妥当性を欠くと思われますが、そういう好悪の感情とは無関係に、バフェットの投資手法を顧みると、なるほど不動産投資ゲームにおける基本的な考え方に適合すると考えるポルブーらの指摘は至極もっともなことだと思われます。

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