不動産M&Aとは何か?その利用の仕方とは?

M&AとはMergers and Acquisitionsの略で、日本語では合併及び吸収と訳されている言葉です。
最近では、日本社会においても、このM&Aという言葉を耳にしたことがあるという人が増えてきたのではないでしょうか。とりわけ、後継者不足に悩む中小零細企業の事業承継の問題が経済誌等で盛んに取り上げられるに連れて、その知名度が高まってきたという経緯があります。

もっとも、それ以前からM&Aは行われており、躍進を遂げている新興IT企業等の多くは、このM&Aを繰り返すことによって拡大を遂げてきたことも夙に知られています。こうした時代になることを見込んで、平成17(2005)年に成立し翌年に施行された、いわゆる新「会社法」の第5編に詳細な規定が設けられたとも言えるのではないかと想像されてます。

但し、これら一連のM&Aとは事業M&Aのことで、弊社が関与するM&Aは不動産M&Aです。この不動産M&Aとは、不動産の取得を主な目的として利用されるM&Aのことで、個別の不動産自体の取引という形態をとるのではなく、当該不動産を保有する法人の売買を通じて実質的に不動産の所有を移転させるものです。

不動産M&Aは事業M&Aほどの浸透を見せてはいませんが、相続の発生のために株式が分散化してしまった、不動産を多く保有する老舗企業の抱える問題に対応できるスキームとしてM&Aが利用されたりしており、それ以外にも様々なメリットがあることから、注目されていくだろうと思われる取引スキームです。

これまでは、(非上場の)株価が高く評価されてしまうために株主の中で相続が発生したら相続人が相続税納税に窮しそうな会社だとか、後継者がいない同族老舗企業、あるいは株主が分散して統一的意思決定に難を抱える会社、本業よりも不動産業が中心になっている会社、大規模修繕前で借入金に困っている会社、子に平等に現金として相続させたいと思っている創業者がオーナーの会社などが重宝する方法として考えられていたふしがあります。

そういう企業は、店舗や事務所あるいは工場等の不動産を会社で取得しているだけでなく、本業の利益が不動産に投下された結果、会社財産の大半が不動産というのが実態であるところが目立ちます。また、不動産の有効活用の一環として自社ビルを建設し、その一階で本業の店舗や事務所を営む一方で、上層階を賃貸に出しつつ最上階にオーナー一族の住居を構える光景もよく目にします。



このように、オーナー会社において、都心一等地の不動産を株による支配を通じて間接的に所有しているのは、相続税法上の課税標準の評価が株式の評価に基づくために、その評価額が低くなる傾向にあるからです。

但しその一方で、相続の度に株主の数が増え、利害関係が複雑化するという問題も抱えています。会社所有とはいえ、一等地の不動産を所有していれば、含み益により株式の評価が高騰する場合もあり、とはいえ非上場会社の株式は流動性がないですから、下手をすると相続税が支払えないというケースも起き得ます。



また、一等地の不動産を所有している老舗企業や店舗は、資産価値の高い不動産を所有しているとはいえ、意外に収益性が低いケースを多く見かけます。加えて、株主構成の複雑化によって、建替え・有効活用・管理運営等について意見がまとまらないジレンマに陥っているケースも少なくありません。

つまり、非上場企業の所有する不動産の多くが資産価値は高い(相続税は高い)のに、老朽化などで収益性が相対的に低く、共同経営のために意思決定が困難な状態にある会社が多いということです。それら会社にとって、M&Aスキームを活用した不動産の処分方法が有効である点が注目されたのでした。

加えて、次のような問題もありました。不動産M&Aの対象になる企業は、設立当初は創業オーナーの個人事業を法人化したものでした。すなわち、事業継続する間に不動産を中心とする会社財産が蓄積され、そうすると不動産の賃貸事業の比重が大きくなり、気がつけば事実上の資産管理会社化していたというケース。

そうすると、会社に蓄積された資産が当該会社の株価を引き上げる一方、創業家一族の個人資産は意外に蓄積されない状況になります。個人資産は相続などで分割されますから、相続税の納税に困窮する人が意外に多いのです。



当然、相続税は原則現金納付なので、個人資産の蓄えがなく、主たる相続財産が非上場株式の場合、現金納付できない事態に陥ると、非上場株式の物納または会社が自社株を買い取る金庫株で対応せざるを得なくなります。



ところが、物納された株式は、いずれ換価処分できることが前提です。そこで厄介な問題を抱えることなります。というのも、株主に第三者が入るリスクが生じますし、発行法人が買い取る場合には、自己株式取得に関わる配当可能利益の計上もしなければならなくなる。そうすると、どこかで買取資金の捻出が必要となってきます。

こうした会社が不動産M&Aを活用することにより、
①複雑化した株主構成の整理

②共同経営や共有問題の解決


③節税


④相続問題複雑化リスクの回避


⑤資産価値の有効実現


⑥柔軟な資金の活用等の点で有利に事を運ぶことが期待されます。

しかし、不動産M&Aは、そうした特殊な事情を抱えたケースにのみ妥当するスキームであるというわけではありません。複数の不動産を法人保有の形態で所有している、あるいは所有しようと考えている不動産投資家にとっても、十分なメリットを提供してくれるものなのです。

そこで、不動産M&Aとは何か、そしてその利用の仕方をメリットとデメリットを踏まえながら簡単に解説していきます。
不動産M&Aとは、不動産を保有する法人の譲渡を通じて、不動産自体の個別の取引を行うことなく実質的に不動産の所有を移転させることを主たる目的として行われるM&Aです。実質的には不動産取引なのですが、不動産を保有する法人の売買という形をとる点が特徴です。

現在、不動産投資家の多くは、資産管理会社等法人を設立して、当該法人が不動産を保有するという形で間接的に不動産を所有するという方法をとっていますので、個々の不動産自体をその都度個別に取引するというよりも、法人の譲渡を通じて実質的に不動産の取引を行うスキームによって、実質的に複数の不動産を一度の手続きで処分または購入したいというニーズに応え得ます。この点で、一般の不動産投資家にとっても魅力的なスキームに映るはずです。

この不動産M&Aは、まだ主流の取引スキームになっているとまでは言えませんが、先述の通り、実質的に複数の不動産を一度の手続きで移転させるための簡便な手法として利用され始めています。

資産管理会社等法人の譲渡については、株式譲渡の方法を活用した不動産M&Aと、会社分割の方法を活用した不動産M&Aに大別されます。前者は、対象不動産を所有する企業の全株式を買い手企業が取得した上で、当該企業を完全子会社とすることよって、買い手企業は子会社を通した不動産を間接的所有を実現することができます。

対して後者は、会社分割を活用します。会社分割とは組織再編手法の一つで、株式会社の事業の権利義務の全てまたは一部を包括的に別会社へ承継することであって、更に細かく新設分割と吸収分割の2種類に分けられます。

簡単に整理すると、前者は新規設立した会社への承継手法で、後者は既存会社への事業承継手法です。新設分割と株式譲渡を利用することによって、例えば、本業と不動産を切り離して、不動産のみを保有する会社の株式を譲渡することによって、実質的に不動産を処分することができるというわけです。不動産を個別に処分するよりも手続きが簡便に済み、また節税に資する場合もある点が魅力です。

不動産M&Aを行う主なメリットは、よく言われるように、一つに節税が期待できるケースがあるという点です。もっとも、全てが節税になるとまではできません。新設分割と株式譲渡による不動産の処分が、その態様いかんによって「租税回避行為」と見なし得るようなものであるならば、税務署から否定されるおそれもあるからです。

ただ、そうしたレアケースはともかくとして、一般に不動産M&Aの場合、個別の不動産自体の処分とは異なり、株式売却時における利益に対して原則として約20%のみが課税対象となりますので、売却で得た資金をより多く手元に残せるとの期待が持てます。

不動産M&Aを行う主なメリットとしてよく言われる二つ目は、不動産M&Aは、個々の不動産自体のその都度の処分という形をとらず、会社の株式の譲渡であるため、複数の不動産を同時に処分することができるので、手続きが簡便であるという点です。

先に記した売却益に課せられる税金のみならず、不動産移転に要する登録免許税や不動産取得税や登記費用が不要となる点も特筆すべき点でしょう。

ここまでは、主として売却する側のメリットに触れてきましたが、譲り受ける側にも当然メリットがあります。一つは、手続きが簡便であることです。二つは、取得コストの節約に加え、一件あたりの取得価格を比較的低く抑えられるという点です。不動産物権変動に伴う諸税や印紙代等を支払う必要がありません。

もちろん、いいこと尽くめというわけではありません。メリットもあればデメリットもあります。デメリットの最たるものは、対象となる法人の簿外債務の存在の有無です。M&Aによって法人を取得したまではいいが、後々その法人の隠れ債務が見つかると、法人を譲り受けた者が債務の負担を強いられる可能性が出てきます。だからこそ、M&Aにおいては慎重な調査が求められます。手続きは簡便とはいえ、その分、専門家の時間と手間を要することになります。

そうしたデメリットもあるものの、不動産M&Aは、その仕組みをよく知悉した上で活用すれば、個別の不動産自体の取引においては享受しにくいメリットを提供していることも確かです。また、個別の事情に柔軟に対しうるスキームでもあります。

複数の不動産を法人で所有する資産管理会社を利用する不動産投資家が、個々の不動産を個別に処分するよりも、全部または一部の不動産を簡便に処分する、あるいは逆に、複数の不動産を一戸または一棟当たりにすれば割安の価格でかつ簡便に入手する方法があります。
複数不動産を簡便な手続きで取引したい、複雑化した株主構成の整理をしたい、共有問題の解決を図りたい、資産価値の有効実現を考えたいなど、多様なニーズに即応した戦略を講じることが望めます。
設立当初はオーナーの個人事業を法人化したもので、事業継続する間に不動産などの資産が蓄積され、資産管理会社化したというケースでは、蓄積資産が株価を引き上げる一方、個人資産は相続などで分割されるので、相続税の納税に困窮する者が意外に多い。こういう場合でも不動産M&Aの手法が役立つことがあります。更に、株式の譲渡益は原則として金融所得課税となり、税率の面での利点も見込めることができます。