株式投資との比較で見た不動産投資の魅力    -主としてボラティリティに定位して-

“アクセスの容易さ”や“流動性の大きさ”などの利点が強調されがちな株式市場と比較して、不動産市場は株式市場にはない投資メリットを提供してくれています。そのメリットとは、株式市場よりもボラティリティが低く、一般にパブリック・マーケットの投資パフォーマンスとの相関が低いことが挙げられます。こうした違いがあるので、不動産投資は主に、株式や債券に割り当てられた投資ポートフォリオを補完する機能を担い、意味のある分散投資の手法を提供することができます。

一般に、相関関係がほとんどない状態で保有する投資が多いほど、ポートフォリオは多様化していることになります。ボラティリティは分散可能な非体系的リスクの一つであり、分散は相関関係のない投資を選択することによって達成できます。パブリック・マーケットのボラティリティの主な原因は、その効率性の高さです。高い効率性は大量取引を可能にし、それが市場内のボラティリティの大きさを許容することになります。このボラティリティが投資の相関関係と組み合わされると、ポートフォリオを多様化・安定化するマーケットの力が低下することになるのです。

したがって、1つの投資で損失が発生した場合、相関する投資も損失のリスクに晒されます。つまり、ある資産クラスに影響を与える事象が、他の資産クラスに効果をもたらす可能性があります。例えば、原油価格が上昇した場合、航空会社と食料品会社は、輸送費の増加のため利益を失うリスクを共有し、これにより各々の株価が下落する可能性が出てきます。これら企業は異なる業界に属しているものの、原油を含む同じ基本的投入物に依存しているため、同じリスクを共有することになるからです。

パブリック・マーケットは効率的であるのに対して、プライベート・マーケットは非効率的であると一般に解されています。プライベート・マーケットの典型である不動産取引は、一般的にコストが高く、参加する見込みのある買手と売手が少ない。全ての情報が公開されたり、当事者間で共有されたりするわけではありません。価格はマーケットの価格調整メカニズムによって決定されるのではなく、個別の交渉により決定されます。これが株式市場との相関関係とボラティリティの低さの主な理由の一つです(その分、プライベート・マーケットの投資家は、株式市場のような極めて効率的市場では不可能な方法で市場平均を上回るリターンを獲得できる可能性に開かれていると言えそうです)。不動産投資は、特に数年間にわたる投資を続けることができる長期投資家に向いているとされる所以です。

“ハード資産”と呼ばれる一部の資産の上昇率は、インフレ率を上回る可能性があります。“ハード資産”は、供給が自ずと制限されている上に本質的価値を保持しているため、インフレ・ヘッジに適していると言われ続けています。特に、需要の高い地域で土地が不足するに連れて、その価値は高く評価されます。不動産は需要に応じて上昇する可能性があるため、キャピタル・ゲイン及びインカム・ゲインの双方から、その希少性の価値を掴まえることができるというわけです。

インフレ率の増加は全てではないにしても、ほとんどの投資全体でボラティリティを高める可能性が高い事象の一例に過ぎません。金利の上昇の予測または実際の上昇も、多くの資産クラスの価格下落を引き起こします。これは、金利が高くなると企業と消費者の両方にとってローン費用が高くなり、両方からの支出が減少する可能性があるためです。しかし、実質金利の上昇は、不動産投資における投資家の株式持分に限定的な影響を与え、不動産にローンがある場合、その資産はローンに対する金利ヘッジを提供するため、より魅力的に映るかもしれません。

もちろん、不動産は全ての体系的なリスクに対して分散を提供することはできません。他の投資と同様に、それは、それ自身の一連のリスクと金融システム全体に固有のリスクの影響を受けることになります。しかし、他の資産クラスとは異なり、いくつかの体系的なリスクを管理するための便利な方法を提供できます。市場に参加する買手と売手が少なく、情報が不平等に共有されているため、投資家は知識を利用して市場を上回るリターンをもたらす購入または再販価格を交渉できる余地があるからです。

相関のない資産間でポートフォリオを適切に分散することにより、投資家は利用可能な最も安定した方法でリターンを獲得するために必要最小限のリスクを取ることができます。ポートフォリオの保有が相関のない資産に分散している場合、1つ以上の投資の強力なパフォーマンスにより、別の資産のパフォーマンスが低下した場合のポートフォリオの損失が軽減されもします。これは、相関のない資産は相関のある投資よりも価値を失う可能性が遥かに低いためです。

効果的なレベルの分散を達成するには、意味のある多様化を実現する主要な戦略の1つとして、パブリック・マーケットだけへの投資ではなく、例えばポートフォリオの20%をプライベート・マーケットへの投資に差し向けることを考えて見てもいいかもしれません。不動産は、その賢明な投資先となり得ます。不動産投資には様々な点で投資妙味のあるメリットがありますが、たとえ不動産投資をメインにしていない投資家にとっても、リスク・ヘッジのための優れた投資対象になります。

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