米国のシリコンバレー銀行(SVB)の破綻の報は、我々に、組織が予期せぬ事象に備えなければならないことを改めて思い出させます。その意味で、組織のレジリエンスを構築するための 1 つのアプローチは、脆弱性(fragility)対策の原則を活用することと言えるかもしれません。
脆弱性対策とは、組織が単に回復力を持つだけでなく、環境の混乱や予期しない変化から利益を得る戦略を展開できるアプローチを指します。反脆弱性(anti-fragility)という概念は、ナシーム・ニコラス・タレブ博士の、『反脆弱性-不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』(ダイヤモンド社)として邦訳されている一般読者向け書物によって普及している概念であり、市場の暴落、パンデミック、自然災害等から個人または法人を保護するための様々な戦略を講じる元となる概念であるとも言えます。
反脆弱性概念の中核を担うのは、マイナスリターンに資金を投下し、可能な場合は分散型の意思決定を使用する等、直感に反するアクションを伴うストレステストシステムの概念です。組織はまた、失敗を避けるものではなく、学習の機会と見なす文化を採用する必要があり、失敗を学習の機会と見なし、フィードバックループを使用してプロセスを絶えず改善することで、時間経過とともにより強力な回復力を生み出していくというものです。
SVBの場合、リスクテイクと実験を称賛する文化を採用しながら、金利上昇がバランスシートに悪影響を及ぼした際にストレステストアプローチを採用することで、組織をより脆弱にするための措置を講じることができたはずです。Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)が支配する世界(VUCAの世界)では、バランスシート上のリスクが増大し、現金引出しが流動性に影響を与える状況の変化に迅速に対応できるように、機敏なアプローチが求められます。長期国債のタイミングの悪い清算と株式の同時二次募集は、ベンチャーキャピタルとそのポートフォリオ企業の間でパニックを引き起こした可能性も考えられますし、良いバランスシート計画と様々な流動性状況のストレステストによって反脆弱性の考え方を採用することで、将来の混乱や危機に備えることができた可能性すらあります。
いずれにせよ、SVBの破綻は、2008年の米国リーマン・ブラザーズの破綻劇の記憶を蘇らせているようです。もっとも、両者の状況には大きな違いがあることは言うまでもありません。とはいえ同時に、後の大災害の前兆であったと後世捉えられることは十分にあり得ます。例えば、2007年4月2日、ニューセンチュリー・ファイナンシャルは破綻しましたが、リスクを適切に評価できなかったこの「新世紀の金融機関」の崩壊は、18か月後にリーマン・ブラザーズの破綻で最高潮に達した金融危機の出発点です。
2023年3月10日、SVBは、史上最大の銀行運営を受けて、米国当局によって閉鎖されました。問題は、この破綻が新たな危機の出発点であるかどうかです。これまでのところ、FRBをはじめ金融当局は、パニックを緩和するために強力な措置を講じることを決定しています。
リーマン・ブラザーズ破綻の記憶は、SVBが多くの点でリーマン・ブラザーズの件とは正反対であっても、依然として金融市場を悩ませ続けています。確かに、リーマン・ブラザーズは国際的な投資銀行でしたが、SVBはローカルな商業銀行です。サンタクララの本社は地味な2階建ての建物に対して、リーマン。ブラザーズはニューヨーク市マンハッタン区の38階建ての超高層ビルを占めていました。
SVBには固有の損失事情がありました。一つ目は、リスクが高すぎる資産ではなく、世界で安全であると考えられている投資つまり米国債や住宅ローン担保証券に資金を投下していました。しかし、これらの証券には欠陥があります。金利が上昇すると、その債券価格は利回りが新しい市場レートと等しくなるまで下落します。FRBは、過去1年間で短期金利を大幅に引き上げ、他の金利も大幅に上昇しました。例えば、10年物金利は4%近くまで倍増し、SVBが210億ドルの証券を売却した時、18億ドルの損失を記録しました。
SVBは、顧客がお金を取り戻したかったため、これらの証券を売却しなければなりませんでした。金融環境が厳しくなるにつれ、新興企業はより少ない資金を調達しています。そして、SVBで眠らせるよりも、利回りがかなり高まりつつあるマネーマーケットファンドに流動性を回すことを選好するでしょう。SVBが証券の一部を売却し、損失を記録することを余儀なくされたのは、これらの引き出しでした。
SVBのフロー停止が大手パートナー銀行の暴落を引き起こす可能性は未知数ですし、それゆえ、システミックリスクはリーマン・ブラザーズの件とは異なり、直接的なものではあるわけではありません。とはいえ、今もリスクを抱えています。
第一に、小規模な銀行の顧客の不安が増大し、口座資金を保護するために流動性クッションが厚い、より大規模で監督の行き届いた機関に切り替え始めることです。これらの大規模な送金を防ぐために、米国当局はSVB預金者および3月12日に閉鎖された暗号通貨で活発なニューヨークを拠点とする銀行であるシグネチャー銀行を保護することを決定しました。
第二に、意図せざる連鎖反応です。SVBの記事は、ニューセンチュリー・ファイナンシャルの崩壊からリーマン・ブラザーズ破綻に至るまで、様々なことを想起させもします。2007年7月、SVBのような2つの地方銀行は、米国の不動産に基づいて構築された金融商品、ドイツの銀行IKBとSachsenLBで多額の資金を失った後、救済されなければなりませんでした。2007年9月、英国の銀行ノーザンロックは、ノックダウンする「バンクラン」を経験しました。2008年3月、投資銀行のベアースターンズ社はパニックでJPモルガンに引き継がれましたが、SVBはそうした救世主を探しましたが無駄に終わりました。
第三に、金融当局は弁護の余地のなき金融業者を救済するのは難しいと判断する可能性があります。事実、SVBの責任者であるグレゴリー・ベッカー氏は、2月に300万ドル相当の銀行株を売却していましたが、そのベッカー氏は、リーマン・ブラザーズの支店の元CFO(最高財務責任者)を採用していました。監督当局が銀行の口座を綿密に監視を回避するためでした。
もう少し期間をおくことで、この破綻劇の全容が見えてくるかもしれませんが、いずれにせよ、金融政策いかんでどうとでも変化し得る不動産市況ですから、投資家としては、対岸の火事として今回の事態を捉えるのではなく、ある種の「緊急事態」として捉えることくらいがちょうどいい態度というべきでしょう。